The Nameless City: 模型映像制作概論-3 レンズとフレームレート

2020年1月21日火曜日

模型映像制作概論-3 レンズとフレームレート

2020年1月19日日曜日「模型映像制作概論-2 カメラ」の続きです。

どんな人が読んでどこまで知りたいか不透明なままゆるい感じで進む映像制作概論ですが
一部の人にだけご理解頂ければ幸いと言う気持ちで進めていきます。
そうじゃないと書く事が多すぎて自分の精神が参ってしまう。

今回は今までの映像とカメラの構造を踏まえて、さらに一歩入ったレンズの面白さについて書きます。
光学的、物理学的な問題も絡んでくるので一部簡単に解説もいれますがまったく知らない人には
本当に難しい問題だと思います。
カメラはどこにでもあるので習うより慣れろでマニュアル操作で触って見るのが一番です。

センサーサイズとレンズの関係

前回最後にセンサーサイズの所で「レンズとセンサーの大きさで画作りの幅、表現の幅が違う」
と書きましたがもう少し具体的に説明します。

レンズとセンサーの大きさの違い。
スマートフォンはこの画像の1インチよりも更に小さい。
1インチはコンパクトデジタルカメラなど。
4/3はフォーサーズと読みますがこの辺りから一眼カメラになってきます。
センサーのサイズが大きければ大きいほどレンズの特色を生かした画作りが出来ます。
逆に小さいセンサーはその大きさを生かしてレンズも小さくした方が有利です。

大きなカメラ用のレンズと小さいセンサーで写真を撮る事ももちろん可能です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Crop_factor

しかし、この画像のように35mmフルサイズカメラ用のレンズを使って小さいセンサーで撮影すると
クロップと言って単純にレンズの中央部分しか撮影できません。

これはこれでレンズが一番きれいに撮れる部分を使えます。
映画用のカメラがフルサイズのセンサーではなくSuper35mmと言って少し小さめな理由は
また別の理由がありますので別の機会に。

市販のレンズで「35mm判換算で○○mm相当」なんて書かれている理由は次の画像。
https://en.wikipedia.org/wiki/35_mm_equivalent_focal_length

これが書かれているのはフルサイズ用ではない小さいセンサー用レンズと言う事になります。
フルサイズで見た時にクロップされるので、クロップされた範囲がフルサイズで撮影した時に
何mmのレンズ相当なのかわかりやすくするために書かれます。
ざっくりですがAPS-Cは1.5倍、マイクロフォーサーズは2倍で計算すればだいたいのフルサイズ換算になります。

スマートフォンのようにレンズやセンサーが小さくても写せる物の大きさは変わりません。
変わらないように光学的にレンズを作っているからですが、小さい分入ってくる光の量は少なく
焦点距離も一定でボケを生かした撮影は基本的に出来ません。
とは言え近年デジタル的に後処理で追加する事ができるようになりました。

焦点距離

いよいよ実践的な話になってきます、次は焦点距離についてです。
クロップされないフルサイズ用レンズでの話で進めていきます。
レンズに〇〇mmと書かれているのは焦点距離の事です。
こんな感じで画角が変わってきます。画角とは写せる範囲と広さの事です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E8%A7%92

焦点距離と言っているけど実際の距離ではなく光学系の主点から焦点までの距離で屈折回数で
レンズの大きさも変わってきます。
写真レンズの場合は合成焦点距離と言うそうです。

ここから私が4日前に作っていた画像をようやく貼っていきます。
レンズの違いは実物でやると余計な事が多すぎるのでCGで分かりやすく説明します。

まずはフルサイズ用レンズをシミュレーションして縦横比16:9(一般的なHDやUHDの縦横比)
すべてに焦点があっている状態(パンフォーカスと言います)
すべて同じ場所から教会を狙いレンズだけ変えて撮影。

24㎜レンズ

50mmレンズ

135mmレンズ

200mmレンズ

手前の建物と奥の建物が徐々に詰まってきて見えると思います。
全体的に密度の高い画作りが出来ます。

では次は24㎜レンズのまま場所を変えて教会へ寄って行き似たような画をさぐってみます。
24㎜レンズでそのまま最初の撮影場所。

50mmレンズに写っている建物を基準に寄った所、徐々に遠くの建物が遠くへ。

教会を135mmレンズと似た大きさに収めた所、手前に入っている建物が減り、遠くの建物は遠いまま。
後ろにあった鐘塔は教会のドームに隠れてしまった。

教会を200mmレンズと似た大きさに収めた所、ここまでくると建物も歪んで見える。

どうでしょうか?ほとんどの方は意識せずに感覚でこの写真の撮り方をしてると思います。
単焦点レンズ(ズームレンズではなく〇〇mmが固定のレンズ)の場合は自分自身が被写体に
寄ったり離れたりする必要があるので特に実感できます。

追記:比較しやすいようにまとめた画像も作成しました、消失点がすべて同じ所がポイントです。
クリックで拡大します。

被写界深度

被写界深度と言う言葉を聞いた事がある方も多いと思いますが、ようはピント(フォーカス)の
合っている範囲の事を言います。
この被写界深度とボケを生かした画作りをする時に重要なのが絞り(F値)の調整です。
Wikipediaにはボケを生かした撮影方法が日本発祥かのように書かれていますが、言葉として
ボケ=Bokehと言う言葉が英語でも使われるようになっただけで元々一般的な表現方法です。

ただピント(フォーカス)を合わすだけならフォーカスリングを回すだけですが、その
ピント(フォーカス)の合う範囲を調節するには絞り(F値)を調節する必要があります。
絞りは地球上の生物なら皆さん普通に眼球に備わっている機能なので分かりやすいはずです。
目が悪い人はとくに目を細めるとピント(フォーカス)があってくるはずです。

コンタクトレンズのアキュビューのサイトが分かりやすい。
「瞳のギモン『目のしくみ』:目を細めると見やすくなるのは、なぜですか?」
https://acuvuevision.jp/gimon/vol10_1

カメラ用レンズにはフォーカスリングがあるので絞ってさらにピント(フォーカス)を合わす事で
焦点の合っている範囲を自由に変えられます。

目と同じようにレンズの絞りもこうなっています、F値との関係も次の画像のような感じ。

人の目もそうですが絞ると入ってくる光の量も減るので暗くなります。
つまりピント(フォーカス)の合う範囲を広くしたければしたい程明るい必要があります。
逆に被写体以外がボケボケの画作りで良ければ暗くても絞りを開ければ大丈夫です。

パナソニックのデジタルカメラ講座のサイトが分かりやすいです。
https://av.jpn.support.panasonic.com/support/dsc/knowhow/knowhow06.html

次は先ほどのCGを使ってボケ具合をシミュレーションした画像を作ってみました。
上には真横からみたCGで何となくの焦点範囲をあらわしてます。
135㎜レンズで同じ場所から絞りを変えた場合を想定してます。

最初は全部に焦点が合っているパンフォーカスの状態。F22を想定。

次はF16を想定、徐々に前後がボケてきて若干明るくなってきます。

F8を想定、だいぶ焦点範囲が狭まり明るくなってくる。

F4を想定、後ろの鐘楼はボケて溶けてしまった。

F2.8を想定、明るさも増して後ろの鐘楼は見えなくなってしまった。

現実に晴れた日にここまでボケを生かした写真を撮るにはNDフィルターと言ってあえて入ってくる
光の量をコントロールする必要がありますがCGだと簡単。

どうでしょうか?ボケと言うのは一見邪魔なように思えますが画作りとして面白い効果があります。
映像を撮影できる機材の性能が悪かった頃はレンズもセンサーも小さく逆にボケを作るのが難しく
画作りとしてはペタッとしたフラットな画しか作れなかったのでビデオっぽい画と言うレッテルが
貼られていました。
今はレンズやセンサーが進化してハンディカムのような小さいビデオカメラでもそこそこ画作りが出来ます。

スマートフォンやGoPro等アクションカムは更に小さいので映像表現としては今でも
幅が狭いのが分かると思います。
写真であればデジタル的な後加工でボケを追加したりできますが、それはあくまで写真を
解析したうえでのものです。
映像でも出来るようになってきましたがまだウソっぽさが残ります。

縦横比による見え方の違い

少し雰囲気を変えて縦横比の違いについて見てみる事にします。
ここまでは縦横比16:9で様々な画角を見てきました。
次は4:3と言うどちらかと言うと写真や旧テレビの縦横比に近い形です。
24mmレンズ、単純に上下の見える範囲が広い事がわかります。

教会へ寄って見た所、いかにも写真と言った雰囲気になります。

最近スマートフォンなどで縦のまま撮影すると16:9が縦位置に記録する事になるのでこんな画になります。
確かに上下がすべて入るしスマートフォンに最適化されていて良いのですが映像的にはおかしく感じます。

前々回に書いた映像フォーマットについてをおさらいすると分かります。
2020年1月18日土曜日「模型映像制作概論-1 映画史と映像フォーマット」
元々映画館など広い所で上映する場合は横長である必要もあり長年横長の映像が一般化しましたが
HDTVの登場で更に人間工学的に距離と視野角から16:9が決定しました。
上下よりも左右からの情報を認識しやすい生物の目は上下に大きな画面には見慣れません。
やはり縦位置の映像はスマートフォン用と割り切った方が良いでしょう。

もし4:3や9:16の縦位置で撮ってしまって16:9の横位置の映像と組み合わせるとどうなるか見てます。
左は4:3を16:9横位置に、右は9:16の縦の映像を16:9横位置に収めた所です。
こういう状態をピラーボックスと言います、テレビを見ていて昔の映像を流すときにこの
左右黒い部分にボカした同じ映像をはめている事が多いと思います。
逆に4:3に16:9の映像を収める事をレターボックスと言います。

映像を編集する時に突然黒い部分が現れるのは、その瞬間にテンポが途切れ別の場面へ
シーンチェンジもしくは時代が変わったかのような錯覚になるので避けるべきでしょう。

実際に模型を撮ってみる

CGや屋外では明るく自由なのでどんな映像でも撮れますが屋内ではそういうわけには行きません。
次は屋内でちょっと照明を置いて撮影をしてみましたが、いかに悲惨な状況かわかると思います。

太陽光と屋内の照明の明るさについては過去に書いているので参考に。
2018年1月29日月曜日「レイアウトのライティングについての考察」

夏の太陽は晴天の昼で100000ルクス、冬だと50000ルクス。
うちにある照明は5500ルクス(高さ1m)を2灯、レイアウトをフラットに当てて撮影するため
ちょっと特殊な置き方をしました、足りない部分は古いLEDライトや家庭用スポットライトを
天井に向けてます。

今回は映像ではないけど絞りと明るさの関係を見るためCanon 6Dで撮影。

絞りとシャッタースピードを変更して明るさを合わせつつボケ具合の変化を見てみます。
Canon EF24-70ズームレンズで59mmまで寄って撮影。
シャッタースピード1/20 絞りf22 iso3200、これでパンフォーカス気味。

シャッタースピード1/125 絞りf11 iso3200

シャッタースピード1/1500 絞りf5.6 iso3200

シャッタースピード1/2000 絞りf2.8 iso3200、これで絞りは全開状態で開放と言います。

次は試しに絞りは開放でシャッタースピードとISO感度を下げて同じ明るさにしたもの。
シャッタースピード1/60 絞りf2.8 iso100、こんな事も出来ます。
シャッタースピードを下げる=センサーへあたる光の時間が長い
ISO感度を下げる=上げると明るくなるがノイズが増えるので出来るだけ下げたい

次はさらにパンフォーカスを追及するためにカールツァイスの15㎜で撮影してみます。
Carl Zeiss Distagon 15mm
シャッタースピード1/30  絞りf22 iso3200、これで似た明るさに。

写真の場合はトリミングできるので中央部分を切り取ったもの。
これでこの暗い室内でもほぼパンフォーカスになっています。

映像の場合はシャッタースピードで明るさを稼げないのでとにかく光量を稼ぐしかありません。
室内で光量を稼ぐにはとにかくお金をかけて照明を追加するしかありません。
過去にも書いていますがHMIと言う照明が最強です。
この写真のARRIのHMIは非常に高価なうえに家庭で使ってる人はほぼいないと思います。

とは言えここまでしなくても模型に十分な光量が当てる方法はあります。
これは先日のネレトー先生との模型演出研究会でも学んだ事なので別の機会に書きます。

シャッタースピードとフレームレート

実際映像を撮影する場合は最初の回で書いた静止画(フレーム)の連続なので、その連続数である
フレームレート(FPS=Frames Per Second)が重要になってきます。

静止画を撮影するのにシャッタースピードは自由に設定できますが映像の場合1枚1枚の静止画の
フレームレートが決まっていますので秒30フレームなら1/30、秒60フレームなら1/60以下の
シャッタースピードには出来ません。
出来るものもありますが同じフレームが連続してフレームが飛んで見えます。

ハイスピード撮影(スローモーション)する場合も同じです。
秒240フレームの場合はシャッタースピードを1/240以下には出来ないと言う事です。

さらにフレームレートで問題になってくるのが西日本と東日本で違う電気の周波数です。
LED照明になってあまり気にならなくなってきましたが、安いLEDや古い電球などはダイレクトに
周波数の問題に直面します。

下のアニメーションはテレビのリフレッシュレートを現したものですが説明に丁度良いので引用します。

このVideo Frames=フレーム数とReflesh Rate=周波数が合っていれば問題ありません。
しかし電気の周波数で明滅を繰り返す電灯の場合周波数と合っていないとチラついて見えます。
この現象をフリッカーと言います。

動画を撮った事のある人は分かると思いますが夜の街を撮影すると良く分かります。
例えば古い駅舎なんかの照明と街の看板でチラつきが違う事が分かると思います。
これが家庭内でも起きます。

西日本の人は実は映像フォーマットと相性が良いのです。
60hzなので60フレームの映像を撮影する場合シャッタースピードを1/60を最低にできますし
更に1/120や1/240でハイスピード撮影してもフリッカーが出にくいのです。

しかし東日本はなんと50hzです。これは映像にとって非常にやっかいです。
60フレームの映像を撮る場合丁度良いシャッタースピードは1/300からです。
どちらでも割り切れるシャッタースピードでなければなりません。

そのため撮影スタジオでは照明を安定化させるハイスピードなバラスト電源を使用しています。
メーカーや機種によってまちまちなのでカメラ側でシャッタースピードや絞りの調整は必要ですが
一般家庭用の照明とは比べ物にならないほど自由度が高いのです。

次はこれらを踏まえて映像撮影と照明と画作りについてちょっと突っ込んで書いてみたいと思います。

次:2020年1月27日月曜日「模型映像制作概論-4 映像撮影」

4 件のコメント:

  1. こんにちはです。
    普段スマホでブログの写真を撮ったりしてますが、この自分自身が対象に近寄っていく・・・というのは行っている行為ですね(笑)
    画像での違いが明確で、分かりやすかったです。
    もっとレイアウトを作りこんでいくと、撮影に関しては考えないといけないなぁーと勉強させていただいています(^-^)

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    1. がおう☆さん、こんにちは!

      そうですね!スマホをもって被写体に近づいたり離れたりと言う行為を自然に皆さんやってると思います。
      なかにはピンチして拡大縮小しちゃう人もいますが画質はかわるしズームとはまた意味が違いますしね。

      最近はスマホも複数レンズを持つようになったので画作りとしては面白いと思います。
      まずはそこから、そしてきっとがおう☆さんもレイアウトが完成してくると様々な撮り方をしてみたくなるはずです!
      その時にまた1から読んでみてください!きっとお役に立てると思います!

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  2. ありがとうございます。2,3回読んだだけでは理解しきれないですね
    絞りとシャッタースピードの関係性は把握できる気がしますが
    同じ明るさで撮ろうとしたとき
    シャッタースピード1/60 絞りf2.8 iso100
    でも行けるのは、絞り全開で入ってくる光量が多く、iso感度を下げてセンサーに取り込む
    光量を少なくして、シャッタースピードで最終的な光量を調整している、という考え方で会ってますか?

    暗い絵を映像で撮るときの照明に実際に撮ったものと出ている明かりの明るさに結構違いがあるのはシャッタースピードに制限があるから取り込める光量の調節の幅が写真よりも少ないから大変ってことなのかなと思いました
    次回も楽しみにしてます

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    1. ネレトーさん、こんにちは!

      いやーほんと分かり難いですよね!!
      私も分かりやすい説明の書いてあるサイトを探したんですがないんですよ。
      どのメーカーも苦労してて結局漠然と説明するんです。
      私もそれで良いのかもしれませんが後で説明する照明と画作りの話をする上で必要だったのである程度細かく書きました。

      シャッター1/60の話の理解は合っています!
      合っていますがもっと単純でシャッタースピードを遅くしたことでセンサーに当たっている光の時間が伸びたから明るくなったんですね。
      ISO感度をそのままだと今度明るすぎてしまうので下げました。
      ISO感度はあげればあげるほどノイズが乗るので一番に下げたいポイントです。

      暗い画を撮る時ですが、人間の目とカメラの一番の大きな違いはダイナミックレンジの違いです。
      これは今回説明していません、人間の目は超高性能なうえに脳で記憶から補正するというチート機能まであります。
      ネレトーさんのおっしゃっている「光量の調節の幅」がこのダイナミックレンジの違いです。
      LOG撮影との兼ね合いもあるので次回画作りの所で説明しようと思います!

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